本研究は、経済社会発展段階の異なるアジア諸国における教育開発過程を包括的に分析し、開発の初期段階(1960年代)から今日に至るまでの多様な発展経路を横断的に貫く構造と特質を考察し、より実現且つ持続可能性の高いアジア型の教育開発戦略を新たに導き出すことを目的とする。 本年度は、研究の第一段階として、まず1960年代以降の教育開発に関する理論的考察を行った。これは、1960年代に興隆した近代化論や人的資本・人的資源開発論に代表される機能主義的アプローチ、及び1970年代の新マルクス主義や世界システム論の影響を受けてきた政治経済学的アプローチを踏まえ、1980年代のマクロ構造調整下の教育危機あるいは混沌状況を経た1990年代を「新機能主義」の時代として位置づけるものである。更に、研究手法として用いられる「教育部門分析」手法の検討とその適用を行った。いくつかの研究対象国の教育部門を主に内部効率性(量的・質的内部効率性)、外部効率性(経済的・社会的外部効率性)、制御能力(教育システムの管理・運営能力)の三つの判断基準によって分析し、そこから明らかとなったマクロ及びミクロ教育指標によって、アジア新興工業国、アセアン諸国、社会主義市場経済移行国、南アジア諸国といった教育発展段階別の類型化と教育段階・タイプ別の開発優先順位に関する比較考察を行った。特に、教育財政構造の長期的趨勢を把握するためにUNESCOや世界銀行が開発した教育財政予測モデルを併用した。 来年度は、「新機能主義」と位置づけた教育開発への理論的アプローチをより精緻化すること、及び政治的、法的、制度的、歴史的な側面を加味することによって、国別あるいあは地域別事例分析としての完成度を高めて行く中でアジア諸国の教育開発過程の構造と特質を明らかにすることに努める。その中で「アジア・モデル」の輪郭を描き、理論・政策・実態等の各面からの将来展望を試みたい。
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