本研究は、アジア諸国における多様な教育開発過程の構造と特質を把握することによって、教育開発の「アジア・モデル」の輪郭を描きアジア型の教育開発の方向性を検討し、より実現性且つ持続可能性の高い教育開発戦略を描き出すことを目的としている。 まず、教育開発過程に関する先行研究レビュー、記述統計分析・回帰分析及び新たに考案された教育開発指標を用いたアジア諸国の類型化を行った。その結果、アジアの教育開発過程のパターンは、1.東アジア型[(1)日本・韓国・台湾、(2)香港・シンガポール]、2.アセアン4カ国型[(3)フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ]、3.移行経済国型[(4)中国・モンゴル、(5)ベトナム・ミャンマー、(6)ラオス・カンボジア]、4.南アジア型[(7)スリランカ、(8)バングラデシュ・パキスタン・インド・ネパール等]の4つのカテゴリーと合計8つのサブ・グループに分類された。更に、教育部門研究手法として用いられてきた教育セクター(サブ・セクター)分析を適用し、各カテゴリーに属する国々の事例分析を行った。その際、各国の教育部門の歴史的背景と教育行財政構造を含む教育システムの特質に言及した上で、教育セクター(サブ・セクター)を内部効率性(量的・質的内部効率性)、外部効率性及び公正度の各判断基準によって分析し、教育開発の「アジア・モデル」の輪郭を明らかにした。 最後に、「アジア・モデル」から導かれる21世紀を展望する新たな政策課題と教育開発戦略の要素として次の7点に注目する。1.「万人の為の質の高い教育」、2.外部条件の変化、3.国家の役割の再検討、4.教育部門運営の強化、5.市場原理の導入、6.社会的弱者への配慮、7.国境を越える教育開発。アジア型の教育開発戦略は、このような新たな挑戦に絶えず対応していくことが求められている。
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