1.目的 考古資料は古代史研究に新たな素材を提供するが、その中に個人を特定できるものは僅かしかないとされてきた。しかし、考古資料には個人の特定ができる指紋を残しているものがある。そこで、粘土を素材とする考古資料から指紋画像の採取と鑑定を行って、その資料の製作に関与した個人の作業内容や作品群を把握し、生産地と消費地の関係および技術交流の実態把握などに指紋が活用できることを示そうとする。 2.本年度の実施内容 本年度も、造形時の工人の指紋が多数残る埴輪を主たる対象とした。千葉県・姫塚古墳の埴輪群像については、成形技法を異にした台部に残る指紋がともに右手拇指の同じ渦状文でありながら、その形態が異なることを確認し、それらの個体が別人の作品であることを実証できた。別人を分離確認できる方法として注目される。また、個人特定に必要な数の特徴点がなくとも、連続する指が同時に使用されていれば、それらをもって工人が特定できることを確認できたのも新しい成果であった。詳細な製作技法については、指の方向から円筒を上下2方向から成形したものがあることを知り、茨城県・権現山古墳出土埴輪には指紋の印象程度から台部の製作が乾燥と粘土積み上げを繰り返しによる工程を踏まえたものがあることを確認できた。もちろん、使用した手の左右も確定あるいは推定できた。千葉県・集落出土の奈良時代以降の須恵器甕では、外面整形の段階で内部に入れた手の連続指紋が検出され、利き腕でないほうの手が左右どちらであったのかを確認できた。栃木県・足利万古焼きの窯出土の近世陶器は指紋や掌紋を用いて装飾文様としており、それらが伊勢万古焼きの系統をひくことをその指紋から確認することが可能であるなど、人の移動を明らかにする方法としても指紋が活用できることを示した。
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