前年度に引き続き、図書館・諸機関に所蔵されている当該時期成立と思われる仮名遣書の書誌的調査を行なった。また必要に応じて複写をするなどして、内容の把握に努めた。すべての仮名遣書を同時に扱うことは数量的に難しいので、一条兼良作と伝えられている『仮名遣近道』をまず採り上げ、その写本間の校合をすすめた。その結果同書の基本的な姿がほぼ明らかになりつつある。今一つ近世期に刊行された『類字仮名遣』を採り上げるために準備を進めている。同書は中世期の代表的仮名遣書である『假名文字遣』を受け継ぐ、物と目されてはいるが、その実態についての詳細な分析はこれまでになされていない。同書が従来指摘されているように、『假名文字遣』の衣鉢を継ぐものであるのかどうかについて、掲載されている項目を検討することによって明らかにしたい。現在全項目をデータベース化しようとしているところである。項目数は5000近く、正確なデータベース作製にさらに時日を要する。中世末から近世初期の時期にかけて、実際のかなづかいそのものにも変化が起こっていることが予想され、分析はそうした現実のかなづかいにおける変化を仮名遣書がどのように反映しているか(あるいはしていないか)を明らかにすることに目的の一つがある。その反映如何によって、同期の仮名遣書がどのような<文字社会>を背景にして生み出されているかが窺えると考える。字音語をどの程度とりあげるか、和歌、連歌といった韻文作製のための要素をどの程度含むか、とりあげられている語の位相(例えば『伊勢物語』や『源氏物語』などに見られる語が多いかどうかなど)等によって、さらにそれそれの仮名遣書の内容を検討している。来年度はいくつかのことがらに絞って、調査の結果をまとめる作業を主としたい。
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