13-16世紀におけるイギリス文学、文化へのイタリアの影響を、文学テキストの伝播、書物の流通、人的交流などをつうじて具体的に分析することを目的とし、本年度は主に下記の研究をおこなった。イタリア文学のイギリスでの受容にかんする研究としては、チョーサーの『カンタベリ物語』の典拠としての14世紀のイタリア文学に昨年度に引き続き注目し、特に「学僧の話」の原典となったペトラルカとボッカッチオのテクストを詳細に分析した。特にペトラルカのテクストが、14-16世紀にかけて、イギリス、フランスへと伝播してゆく過程を跡付け、読者層の変化に対応して解釈が変容してゆくことを指摘した。 また近代初期のイタリア旅行によりイギリスにもたらされた、寓意画や風景画への興味が、イギリスにおいてひとつの文化的視座として確立してゆく過程を、近代初期のイギリスの出版物における挿絵を通じて考察した。 今年度は、収集した資料をコンピュータによりデータベース化することにも多くの時間を割いた。特にイタリア関連の図像資料に関してはスキャナーを用いてデジタル画像化するとともに、千点以上をネットワーク上に公開が可能なかたちで、データベース化した。またイタリアで出版されたエンブレム・ブックを中心とした近代初期の寓意的挿絵入りの書物に関して、やはりネットワーク上に公開可能な、オンライン書誌の作成を開始した。 研究の成果は論文として刊行するとともに、5月の「日本英文学会全国大会」で口頭で発表した。
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