研究課題について、書物と人の交流という外面史と文学的影響という内面史の両方から研究をおこなった。 1. 活版印刷術の伝播と15-16世紀におけるイタリアとイギリスでの出版事情の変化。グーテンベルク以来の活版印刷術の伝播を、個々の出版者の活動と出版対象となった書物の種類およびそのレイアウトに注目しつつ具体的にたどり、15世紀のインキュナビュラから16世紀のより小型な書物への移行の過程に関して、両国を比較した。イタリアでは全般的な書物の小型化が見られる一方で、イギリスでは、テクストのジャンルと用途をより厳密に反映するかたちで書物の形態の多様化が生じたことを指摘した。 2. 中世後期から17世紀にかけてのイギリス人旅行者にとってのイタリアの魅力。中世から17世紀にかけての巡礼者へのガイドブック、人文主義者の旅行者が残した紀行文、16-17世紀の外国旅行の手引き書などを一次資料として用い、宗教改革期を経てイタリア訪問の意義が、ローマ巡礼から古代探訪へと徐々にシフトしてゆく過程を跡づけたが、シフトは完全なものではなく、長らくカトリック信仰への興味と古代への情熱が共存するかたちで、イギリス人にとってのイタリアの魅力を形成していたことが明らかとなった。 3. ベトラルカの詩および散文作品のイギリス文学における受容。ベトラルカの『老年書簡』に登場する「グリセルダの話」のイギリス、フランスへの伝播を16世紀まで全てのヴァージョンに関して辿り、読者層の変化との関連で主題上のシフトを説明した。またベトラルカの「カンツォニエーレ」のイギリスへの伝播を15世紀の写本、16世紀の英訳によって跡付け、いわゆるペトラルキズムの発展をモチーフと挿絵の両面から考察した。 また収集した画像資料を画像データベース化し、Web公開が可能なかたちで整理した。
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