当初は合成音も使用して学習効果を測定する予定だったが、これでは簡単すぎてシーリングエフェクトがでそうなので、英語話者が実際に発話した刺激のみを使い、長期(15回)にわたるrとlの聞き分け訓練が、2つの子音の弁別能力をどのように向上させるかを、信号検出モデルに基づいた指標を用いて検証した。全部で8名の被験者に実験を行ない、始めの4人のデータは、電子情報通信学会にて発表した。rとlの弁別能力は大部分の被験者で訓練による上昇が認められたが、その程度には個人差があった。応答のバイアスについても同様のことが言え、訓練を終えてもrにバイアスがかかる者と、lにバイアスがかかる者とに別れた。しかし長期の訓練を経ても、全ての被験者にとって、rなのに100%lのように全く逆の音と信じて疑わない刺激が存在することが判明した。英語話者が物理的ノイズの存在する状況のもとでrとlを聞き分けているのと同じような困難を、日本語話者が覚えているとするなら、このように常に逆の音と判断される刺激は存在しないはずである。このことは、長期の訓練を経た後も、日本語話者のrとlの聞き分けのメカニズムが、英語話者のそれと本質的に異なっている可能性を示唆している。
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