本研究は2年間で行う予定で着手し、今年度で一応の区切りをつけ終了する。初年度は「色彩名称」及び「方向表現」について扱った。今年度は「数量表現」及び「親族名称」に関運しての語彙体系を扱う予定であったが、昨年度末から今年度前半にかけて集中的にこの2つの語彙グループを調査していく過程でこれらの他にも本研究の主題としている地域学の観点からの語彙体系と民族移動との関係についてより効果的に軌跡をとらえることができる語彙グループを検討する必要性が出てきた。それらの中から「動植物名称」を当初の予定の2つに加えてとりあげることにした。「数量表現」、「親族名称」は語彙研究の対象とされることが比較的多い語彙グループであり、研究代表者が以前に提出した論文のなかでも一部、あつかったことがあるので、今年度の後半にかけては特に「動植物名称」についての語彙研究を行い、「ヤク-ト語語彙研究(3):動植物名称」としてまとめた。 民族の移動の軌跡が語彙に反映されているのはヤク-ト語にモンゴル系の語彙が多く入っていたり、中には遠く移動を開始する以前に接触した言語からの語彙借用と考えられるものが語彙に組み込まれているなどにおいて明らかである。また、シベリア全域を通じて民族の移動による言語接触の軌跡が様々なかたちであらわれていることが明らかになった。ほぼ、研究計画を作成した段階での予想に即した結果が出たが、言語使用域のジャンル、例えば、英雄叙事詩、民話等においては伝統的文化特性を反映する語彙が地域特性を反映する語彙に比べて、予備的に考察していたよりもよく保存されているという例もしばしば見られた。この点は地域学としての観点にどのような形で組み入れていくかが今後の課題となる。この課題も含めて、本研究については来年度中に全体をまとめて公表したい。
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