本研究においては、(1)当番弁護士制度と地域社会、(2)検察裁量のコントロール、(3)裁判の公開と知る権利、(4)訴訟記録の公開と学問の自由、(5)刑事施設と地域社会などのテーマについて実践的・理論的調査研究を行い、(1)薬物事犯の弁護活動と自助グループとの連携、(2)医療刑務所の暴行事件についての福岡県弁護士会の人権救済勧告(1998年8月)、(3)刑法学会等における警告(1996年・97年)、(4)死刑確定者の刑事確定訴訟記録閲覧を認める決定(最高裁第一小法廷決定1996年9月25日)、(5)刑務所の移転問題について日弁連への意見書提出、(6)シンナー対策モデル地区である遠賀の保健所の調査研究への協力、(7)薬物依存者の自助グループの結成(北九州ダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center)と市民による支援のネットワークの形成(北九州にダルクを呼ぶ会等の結成、北九州大学リカレントコース「傷ついた『こころ』とその癒しの科学」の企画実施)などの成果を得た。 その結果、次のような結論に到達した。中央集権的な刑事政策システムは、すでに限界を露呈しており、自律した市民を中心とする非政府組織への期待が高まっている。このような市民の活動を活性化するためには、地方政府の支援や国際協力が重要であり、北九州地区においては、薬物依存問題などをめぐって具体的な活動が始まっている(その際の基本的なコンセプトは、本人の自己決定を基礎とした治療共同体構想である。この点については、拙著『社会的法治国家と刑事立法政策』参照)。なお、その成果は、近く、『薬物依存書からの回復と地域社会の役割-北九州ダルクと市民的ネットワーク-』として公刊の予定である(平成10年度科学研究費・一般学術図書申請中)。
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