研究概要 |
地球・社会・人間・生体などにおける多数の多様な要素からなるシステムが,まとまりのある挙動を示し安定して存在するとき,複雑系と呼ばれる.複雑系現象を表す時系列データとして,麻疹とみずぼうそうの免疫データを取り上げた.Natureに発表されたSugihara-Mayによる論文に,麻疹はカオス的であるが,みずぼうそうはカオス的でないことが述べられているが,それらの時系列データのダイナミクスは決定的であると天下り的に仮定されている.そこで,KM_2O-ランジュヴァン方程式論に基づく定常解析・因果解析・予測解析を適用し,上記の時系列データの奥に潜むダイナミクスが決定的であることの実証分析を行った.応用畑の研究において,適用する理論の前提条件の検証を最初の目的とする実験数学の具体的な成果である思われる.この結果を昨年のアテネで開催されたThe Second Congress of Nonlinear Analysistsの国際会議で発表した. さらに,時系列解析を展開する上で,時系列データの定常性の概念をもっと精密にした理論を展開する必要を感じ,計量ベクトル空間内の流れの(0,N)-定常性の概念を導入し,それが揺動散逸定理で完全に特徴付けられることを証明した.さらに,(O,N)-定常性をもつ流れに付随する相関行列関数の解析的特徴付けを行い,(O,N)-定常性をもつ流れを相関行列関数から構成する構成定理を証明した.その応用として,有限集合の上で定義された相関行列関数の可能なすべての拡張を求める拡張定理と(O,N)-定常性をもつ流れの延長定理を証明した.そこには,揺動散逸定理に潜む揺動流の果たす役割が大きい. さらに,カオスの確率過程論を展開すべく,ロジスティック写像から構成できる定常過程に対するKM_2O-ランジュヴァン方程式を導き,新たな揺動散逸定理を見つけた.この確率過程はロジスティク写像のもつ2次の非線形性のために,ベクトル流としては退化するので,今までのKM_2O-ランジュヴァン方程式論の一般論を適用することはできなかった.
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