レーザー冷却法は、既存のいかなるイオンビーム冷却技術よりも、その冷却力の点ではるかに強力であることが知られているが、その一方で、蓄積リング中を周回する高速ビームに対しては一次元的にしか有効でないという致命的難点を抱えている。本研究は、1994年に提案された“強制的共鳴結合による三次元レーザー冷却法"の妥当性を、多粒子シミュレーションコードを使った数値実験により詳細に検討した。具体的には、まず高エネルギー物理学研究所で開発された粒子追跡コード“SAD(Strategic Accelerator Design)"に、レーザー冷却過程を表現するサブルーチンおよび任意の高周波電磁場の影響が解析可能なサブルーチンの二つを新たに付加し、レーザー冷却システムを完備しているア-ハス大学(デンマーク)のASTRIDリングのラティスパラメータを厳密に考慮したシミュレーションを行った。その結果、これまでに提案されている二つの三次元レーザー冷却スキームのうち、特に結合高周波空胴を用いる方法の高い実用性が実証された。この知見に鑑み、静電場解析コード“POISSON"を用いて、結合高周波空胴の具体的設計を行った。また、実際に設計した空胴の電磁場分布データとしてSADに入力することによって、さらに実現性に高い数値実験を行い、結合高周波空胴による三次元冷却スキームの有効性を再確認した。このように、本研究の成果を実際の蓄積したリングに応用すれば、かつてない極低温の高品質イオンビームの実現が可能であると結論できる。
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