今年度は、ヘテロカーボンナノチューブの作製およびその基礎的知見を得るための前段階として、主に電子スピン共鳴(ESR)法による通常のカーボンナノチューブの電子状態に関する考察を行った。すなわち、CF_4、H_2およびO_2ガスによるプラズマ処理を行ったナノチューブと、処理を行う前のものとの電子状態を比較検討することにより、その表面状態の変化、例えば表面がフッ素化あるいは水素化されるかどうか、およびチューブの先端に穴を開けることができるかどうかについて考察を行った。 ESRスペクトルの温度依存性の解析より、それぞれのスペクトルは、温度に依存しない信号強度を持つ成分と、依存する成分とに分解することができた。前者の成分は、伝導電子に、また、後者の成分はダングリングボンド等の欠陥に起因する信号と同定された。さらに、前ESR信号強度に対する欠陥信号の比は、CF_4、H_2プラズマ処理により減少し、O_2プラズマ処理により増加することがわかった。このことは、CF_4およびH_2プラズマ処理により、ナノチューブの表面がそれぞれフッ素化および水素化され、その結果欠陥が終端されることを示唆している。また、O_2プラズマ処理により、ナノチューブの先端部分に穴が開き、その結果、欠陥が増加したものと推定される。以上のことを確かめるため、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を現在行っているところである。上記の結果は、「Properties of Plasma Treated Carbon Nanotubes」という題名でJ.Appl.Phys.に論文として投稿するところである。今後は、本研究の目的である、窒素およびホウ素置換ヘテロカーボンナノチューブの作製を行い、その基礎物性について考察を行っていく予定である。
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