高温超伝導体は"巨大磁束クリープ"に代表される顕著な熱励起による磁束の運動を示す。しかし、この運動が極低温でも止まらないことが明らかにされ、磁束の巨視的量子トンネリングがその起因としてに注目されている。我々は、様々な高温超伝導体単結晶におけるホール素子およびSQUID磁束計を用いた磁気測定から、低温における磁束の運動に対する熱揺らぎと量子揺らぎの効果を調べた。 平成8年度の研究では、Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+y>においてゼロ磁場付近で磁化緩和率が抑制されることを発見した。緩和率抑制が起こる特徴的磁場は大きな温度依存を示すものの、これは自己磁場の影響であり、真の特徴的磁場は非常に小さいことを明らかにした。この異常の原因を磁束系の次元交差の量子クリープへの影響と解釈した。 平成9年度は、この磁化緩和率の異常の起因を確かめるため、ヨウ素をインターカレーションしたBi_2Sr_2CaCu_2O_<8+y>(I-Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+y>)および非双晶のYBa_2Cu_3O_<7-y>における磁気緩和率の磁場依存性を広い温度に渡り測定した。I-Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+y>においては、Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+y>と非常に良く似た緩和率の異常が、低温においてゼロ磁場付近に現れることを明らかにした。しかし、同様の異常は異方性のはるかに小さな非双晶のYBa_2Cu_3O_<7-y>においても観測された。いずれの系でも異常の起こる特徴的磁場は非常に低く、異方性パラメターγの2乗に反比例すると予想される磁束系の次元交差によるものとは考えられない。残る可能性として、磁束密度がゼロになった付近において、何らかの機構で磁気緩和が抑制されている可能性がある。ゼロ磁場付近では、マイスナー・ホールと呼ばれる特殊な領域が発生することが知られており、この領域の存在が磁化緩和の異常に関係している可能性がある。
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