研究概要 |
この研究では,階層間の相互連関を動的に捉えて階層自身の力学的進化を追求し,この立場から非平衡統計力学と広い意味の宇宙論を有機的に研究することを目的としていた.具体的に得られた成果は以下のようである: 1)初期宇宙電弱相転移のダイナミクスを亜臨界泡の概念を発展させて,マクロからミクロにかけて議論した.量子性の残るミクロな泡と古典的なマクロな泡を系統的に扱う出発点が得られた. 2)宇宙の時間発展の比較的遅い時機に,コヒーレントな物質場がどのように影響するかを明らかにした.特に,宇宙年齢の伸長や,局所・大局のハッブルパラメーターが食い違う一つのメカニズムを提唱した。 3)非平衡統計力学の一般論において,シュレジンガー表示でしか書かれていなかった射影演算子の方法を,ハイゼンベルグ表示で確立した.これは単なる表示の転換ではなく,共存するミクロ・マクロ系の記述に欠かせないものである. 4)結合が非常に強い量子系が緩和する力学過程を解いた.ミクロとマクロの階層が共存するときの時間発展の典型的な例で,我々の追求する階層自身の力学進化を解明するステップである. ■以下は現在進行中の課題で,階層を超えた力学の構築のためにぜひとも必要なステップである.これらは現在,我々が継続申請している科研費をもとに順次完成していく予定である. 5)散逸媒質の中の量子トンネル現象として,時空の粒子生成を伴う量子トンネル現象を量子ポテンシャルの方法を用いて明らかにしつつある.これをもとにして初期宇宙の量子カオスを議論している. 6)ブラックホールのエントロピーの起源を担う自由度を特定し,ホーキング輻射の実態を解明している.…
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