第35次南極地域観測隊により、昭和基地南方350Kmにあるやまと山脈周辺に分布する裸氷帯から採集した汚れ氷(Dirt-ice)層について磁気学的研究を行った。採集したブロック試料は透明氷の中にDirt-iceを含むもので、このブロック試料から30個の定方位試料を採集した。Dirt-iceの自然残留磁気の強度は表層の試料で7.2〜17.6_×10^<-8>内部で14.8〜52.7_×10^<-8>、透明氷との境界で58.8〜13.8_×10^<-8>Am^2/Kgであった。これに対し透明氷では、0.0〜20.9_×10^<-8>Am^2/Kgであった。すなわち、NRM強度は表層で弱く、内部で強い。またDirt-ice近傍の透明氷試料にも磁性粒子が含まれていることを示している。Dirt-iceのNRMの方向はいずれも上向きのベクトルを持ち、試料採集地の地磁気方位の周辺に散在する。これらの試料に飽和残留磁気(SIRM)を1.0Tの外部磁場で付けた場合、Dirt-iceでは3.0〜3.8_×10^<-6>Am^2/Kgに対し透明氷では4.0〜8.1_×10^<-7>Am^2/Kgであった。このSIRM強度は氷層表面と内部では特に大きな変化はなく、Dirt-iceと透明氷の間ではっきりと強度の違いがでた。 Dirt-iceを蒸発させ、固体成分を顕微鏡で観察した。その結果、鉱物の粒径は100μm以下で火山ガラスは認められなかった。またX線解析の結果では粘土鉱物の存在は確認できなかった。固形成分について磁気履歴特性と熱磁化特性を測定した。この結果保持力は17mTで320℃にCuric Pointを持つ鉱物が磁気を担っていることが判明した。顕微鏡観察の結果等を総合的に考えると、磁硫鉄鉱が主要な磁性鉱物で、基盤岩の泥土を氷が取り込んだものと結論できる。
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