気象現象を理解する上で、大気運動、温度と並んで重要なのが水蒸気分布である。これらはそれぞれ運動、顕熱、潜熱エネルギーを輸送している。しかし、前二者の高度分布がレーダーやRASSでリモートセンシング可能なのに対して、水蒸気プロファイルの時間変化を連続測定する方法は未確立であり、今後の研究が期待されている。 ところで、地球大気は電波の伝搬媒質でもあり、その屈折率(n)は大気密度(T)や湿度(q)によって定まる。さらに屈折率変動(M=dn/dz、zは高度)はdT/dzとdq/dzの関数で、特に高度約5km以下では、dq/dzの効果が支配的である。一方、大気乱流に起因する微細な屈折率変動により電波が散乱される現象を活用して大気運動を計測するレーダーが開発されている(MUレーダーが代表例であるが、特に地表付近の低高度を観測対象とするシステムを境界層レーダーと呼ぶ)。このレーダーエコーの特性は乱流に加えて、M、したがってdq/dzに深く関係していることが理論的に予想されている。 本研究では境界層レーダー観測と同時に気球を用いて温度・湿度分布を得て、エコー特性と湿度変動の関係を定性的に比較した。また、衛星放送電波が大気中を伝播する際に、屈折率変動によって引き起こされる干渉(シンチレーション)を地上で検出し、レーダー・気球観測ならびに雲低計(シ-ロメータ)の結果と比較することで、この現象が湿潤大気(雲)に大気乱流が作用した場合に起こることを発見した。これらの解析結果を検討した結果、対流圏下部における水蒸気の動態を電波を用いてリモートセンシングする新しい測定技法を開発することが可能であるとの見通しを得た。今後、、観測結果の統計的解析を進めるとともに、理論モデルとの定量的比較を推進する必要がある。
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