本研究の目的は、日本では変動帯に特有な地質災害を避けるために、集落内でもっとも安定した地点を「安全な聖地」として構成員全員で共有し、逆に危険度の高い地域を「危険な聖地」として立ち入りを制限したという仮説を、長野県北松地滑り地帯の野外調査に基づいて実証的に検証することである。 本年度は、長崎県有田市-佐世保市、生月島、平戸において、「安全な聖地」を表すと思われる神社の配置状況をレンタカ-を利用して現地調査した。その結果、神社の性格は少なくとも4種類に区別できることが判明した。 1つは生月島に典型的に認められる海に関する神社である。すなわち、航海の安全と豊漁を祈願するためのもので、難所である瀬戸や漁場を見下ろす高台に設けられているのが特徴である。2番目は有田市の陶石鉱山跡に認められるもので、鉱山の恵みに感謝し採掘の安全を祈願するために設けられたものである。3番目は佐世保市波佐見川流域に特徴的に認められる洪水に関する神社である。なすわち、居住地および水田として利用されている氾濫原のなかで洪水時に安全な微高地に設けられている。4番目が国見岳西麓の地滑り地帯に分布する神社である。これらはいずれも小高い地山の上に設けられていて、地滑り発生の確率が高い大雨の時に避難所として機能するものと考えられる。 このうち3番目と4番目のものが「安全な聖地」を表す神社であるが、今回の調査では「危険な聖地」を表す地名との関連は解析できなかった。来年度は「安全な聖地」を表す神社の配置と「危険な聖地」を表す地名との関連を解析する予定である。
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