日本列島で頻発する地質災害を避けるために、日本各地の集落では伝統的に、最も安定した「安全な聖地」は集落共有の避難場所とし、逆に危険度の高い「危険な聖地」は危険性表す地名をつけて立ち入りを制限したという仮説を、標記地域で検証することが本研究の目的である。 本年度は、長崎県佐世保市-西松浦郡-伊万里市-松浦市-平戸市-北松浦郡の94地点において、神社の配置状況をレンタカ-を利用して調査した。昨年度の調査では予察的に神社の性格を4種類に区別したが、今回の調査では4種類の神社の性格をさらに細分することができた。 第1の海に関する神社は、航海安全と豊漁を司るもに2区分される。前者(la)は瀬戸や湾奥に航海の目印として設けられた古墳に起源を求めることができそうである。後者(lb)は漁場を見下ろす高台に設けられているのが特徴である。第2の鉱山にまつわる神社も2区分できる。1つは鉱山の開祖を祭るもの(2a)であり、もう1つは採掘の安全性を祈願するもの(2b)で坑道付近に設けられていることが多い。第3の洪水にまつわる神社は、微高地に設けられたもの(3a)と河岸段丘上に設けられたもの(3b)に区分できそうである。第4の地滑り地帯に分布する神社も2区分できる。1つは小高い地山の上に設けられていて大雨の時に避難場所となるもの(4a)で、もう1つは尾根の奥に設けられていて、その付近の森林保全の役割をはたしているもの(4b)である。 このうち「安全な聖地」と明らかに結びついている神社は、第3と第4(特に4a)のものであるが、2aも集落の「安全な聖地」と結びついている可能性は高い。第4の神社周辺で「危険な聖地」を表す地名がいくつか確認できたが、「安全な聖地」と危険な聖地」との関連を解析するまでには至らなかった。一方、遷宮や合祀された神社がかなり多いことから、そうした神社の由来を遡ることで災害史を復元できる可能性は高い。
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