本年度は湖底堆積物としてバイカル湖湖底のドリリングコア試料を用いて研究を行った。 バイカルドリリングプロジェクト(BDP)によってバイカル湖南部のブグルデイカにおいて掘削・採取された100mコア試料をICP質量分析法、ICP発光分析法によって分析した。コアから深度ごとに採取された約200の試料について、主成分元素から微量元素まで約50元素の定量を行い、その結果に基づいてバイカル湖およびその周辺における古環境の変遷および堆積環境における元素の挙動について検討した。元素の深さ方向分布を見ると、マンガンはコアの上部ほど高い濃度を示し、これは試料採取地点の水深が次第に変化してきた可能性を示唆する。隣接する上下の試料と比べてマンガン濃度が特異的に高い試料が複数あったが、このような試料ではリンも同時に高い濃度を示すことが見いだされた。これは堆積時に生物活動が大きく影響をおよぼしていたと考えられる。また、トリウムは鉛とよい相関を示したのに対してウランは異なる分布であり、陸源の砕屑物に直接由来する物質と、湖水が関与する物質の区別に多元素分析が有効であることが分かった。 また本研究においては、これまで分析が困難であった地質試料中の貴金属元素の分析法を開発した。陽イオン交換とICP質量分析法を用いて、極微量の貴金族元素が分析できるようになった。開発された方法を用いてバイカル湖湖底堆積物の分析を行うことにより、サブppb〜数十ppb以下の極微量のロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金を定量することができた。 さらに、BDPによって1996年1〜3月にバイカル湖中部のアカデミシャンリッジにおいて堀削された200mおよび100mのコア試料を分析するために、分析項目に応じた試料の分離分割を行った。この試料は次年度において分析、解析を行う計画である。
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