膜タンパク質の新規構造解析法の一つとして、生体膜中に配向させた膜蛋白質やペプチドの偏光紫外共鳴ラマンスペクトルを測定することにより、各種アミノ酸側鎖やペプチド主鎖の生体膜に対する傾き角を決定するための実験法およびデータ解析法の開発のを行い、以下の成果を得た。 1.配向試料の偏光紫外共鳴ラマンスペクトルを測定し、特定のラマンバンドの強度から、そのラマンバンドを与える発色団の向きを決定するための実験配置の検討を行い、レーザー光の試料に対する入射角は30度、ラマン散乱の集光法は、180度後方散乱法が最適であることを見出した。 2.上記最適実験配置における測定データ解析のための理論的検討を行い、偏光共鳴ラマンスペクトルの強度から、アミノ酸側鎖やペプチド主鎖の遷移モーメントの方向を決定する理論の定式化を行った。また、決定された遷移モーメントの方向から、アミノ酸側鎖やペプチド主鎖のαヘリックスやβシートの生体膜に対する配向方向を決定する方法を確立した。 3.上記実験法およびデータ解析法を具体的に適用し、その有効性を確かめるために、生体膜中にイオンチャネルを形成する抗菌性ペプチド、グラミシジンAを脂質膜中に埋め込み、その脂質膜をガラス基板上に配向させる方法を確立した。 4.配向脂質膜に埋め込んだグラミシジンA中の4個のトリプトファン残基のインドール環の配向方向を決定するため、個々のトリプトファンを重水素化ラベルしたグラミシジンAを合成し、244および257nmで偏光紫外共鳴ラマンスペクトルを測定し、11および13位のトリプトファンが、イオン透過時にその配向方向を帰ることを見出し、本研究で開発した新規構造解析法の有用性を確認した。
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