本研究ではパルスイオンビームの非接触非破壊の検出手段として誘導電荷測定法を確立すること、またそれを種々のイオンビーム実験に応用することを目的として実験を行った。まずイオンが通過する穴の径やシールド、メッシュの効果を検討する為に、種々の形状の誘導電荷検出電極を製作した。これをレーザーアブレーション/飛行時間質量分析装置に組み込み、炭素クラスターの質量スペクトルを測定した。点電荷が検出器を通過するモデルで電極近傍の電場計算を行い、実験で得られた誘導電荷信号と比較解析したところ両者は定性的に一致した。信号検出系の改良も行い最終的には十分に高い分解能とS/N比で質量スペクトルを得ることができた。 この検出器の感度がクラスターサイズに依存しないことを利用し、炭素クラスターの正確なサイズ分布を求めたところ、特定の条件下では炭素数数百の大きいクラスターが大量に生成していることがわかった。また非破壊検出という特性を生かし、負イオンクラスターの光脱離効率の測定を行った。さらに負イオンクラスターを固体表面に入射して2次電子放出効率の衝突エネルギー依存性の精密測定を行った。表面衝突実験では特にSEMで入射イオン量をモニターしにくいため、誘導電荷検出器の使用が有効であった。以上の結果の一部は内外の学会において発表するとともに論文として公表した。また、最近いくつかの研究グループが誘導電荷検出器の有用性を認めてその導入を検討を始めたことも成果としてあげたい。
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