有機分子に一電子酸化還元システムという機能を持たせるために、基本設計として、ベンゼン環などの芳香族化合物と16族(カルコゲン)元素を中心とした高周期典型元素を含む複素環との縮合系を選択した。 標的化合物となる高周期典型元素含有複素5員環化合物の前駆体としてスズ、チタンを含むメタラサイクル群の高効率合成方法を独自の合成経路を採用することにより確立し、さらに、標的化合物への変換は、申請者が確立した最新の環変換反応により、その達成に至った。合成、構造決定した高周期典型元素含有複素5員環化合物群の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーを用い検討したところ、その一電子移動過程に明確な可逆性があることが判明し、さらに単量体での電子移動能を、相当する7π電子系ラジカル種の安定性により評価したところ、いずれもラジカル群が安定に単離され、分子デバイスとしての機能発現が明確となった。 以上のことから、デバイス機能を有機分子に持たせるという点は、分子設計、合成した高周期典型元素含有複素5員環化合物を用いることにより達成できたと考えられる。その中核となった複素5員環内に高周期典型元素を導入した化合物群から誘導される7πラジカル群(常磁性化学種)は、予想以上に安定であり、可逆な一電子相互変換システムとして十分に耐えうるものであった。ラジカルカチオンの場合は、さらに温度の協同効果により、溶液中の分子積層に部分的な二量化という二次応答がみられたが、一次応答と二次応答間のファジ-性については、次年度の検討を要する。一方、ラジカルの場合には、溶液中ではあるが低温でも常磁性を示した。固体状態での電気的特性等の検討が残されているが、導電性材料への応用が期待できる。
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