硫黄原子団が電子伝導に特異な機能を持つことから、この特性を生かした機能性材料開発のための基礎的情報を得るための研究として、先ずモデル化合物の創製を行った.即ち、二核錯体の中心金属部分を測定機に接続するための端末、架橋部分を電子伝達のワイヤーと考え、一方の中心金属へ電子を出入りさせた場合、他方の金属がどの程度その事実を感知することが出来るかを調べることによって、架橋部分の電子伝達性の程度を評価しようとする試みである.本年度はそのモデル化合物の創製と生成機構について、下記に述べる1、2の成果が得られたので報告する. 1 ルテニウムトリスβ-ジケトン錯体中の1個のβ-ジケトンのγ位炭素を硫黄原子団で架橋した下記に示す新規二核錯体の系統的合成方法を開発・確立した. 即ち、先ず二種類のβ-ジケトンを配位した混合配位子錯体、[Ru(β-diketonato)_2(acac)]を合成し、これとSCl_2またはS_2Cl_2とを反応させることにより、配位子acacのγ炭素をS_n(n=1-4)で架橋させた[(β-diketonato)_2Ru(acac-S_n-acac)Ru(β-diketonato)_2]の合成に成功した。 2 硫黄原子団導入に伴う反応の機構を解明した。 即ち、[Ru(β-diketonato)_2(acac)]とSCl_2またはS_2Cl_2との反応によって、中間体である[Ru(β-diketonato)_2(acac-SnCl)](n=1-3)が生成した後に、これらの錯体と原料錯体とが反応して、硫黄原子団で架橋した上記二核錯体が生成する機構である.
|