一次元磁性体に対する精力的な研究の後、関心の中心は一次元系と二次元系の橋渡しの問題、二次元格子上に特徴的に現れるスピンフラストレーションや電子-格子相互作用の問題に移りつつある。今年度は、新しい低次元磁性体として注目を集めているスピンラダーを、分子結晶中で実現することができたので報告する。 我々はp-EPYNN^+・[Ni(dmit)_2]^-結晶中で、[Ni(dmit)_2]^-(S=1/2)が非常にきれいなスピンラダーをつくることを見いだした。Ni(dmit)_2はface-to-faceの重なりをも二量体として存在している。そしてc軸方向には、二量体が並進の関係で結ばれており、二量体間には3.314(2)Åという非常に短いS・・・S接触がある。二量体内と二量体間の両者に、非常に強い相互作用を予想できる。これは、我々が知る限り、初の分子性スピンラダーである。p-EPYNN^+は単なる閉殻カウンターカチオンではなく、不対電子を持った安定ラジカルである。Ni(dmit)_2と同様に、c軸方向に特徴的なstackingしており、ここには弱い強磁性的相互作用が働くことが経験上分かっている。結晶中ではNi(dmit)_2のスピンラダーがp-EPYNNのテープにサンドウィッチされた構造になっており、各スピンラダーは互いに隔離されている。 磁化率の温度依存性を測定したところ、p-EPYNN^+からの弱い強磁性的寄与と、150K以上で現れる[Ni(dmit)_2]^-の熱励起的な寄与の足し合わせで非常にうまく説明できることが分かった。[Ni(dmit)_2]^-の寄与は低温でゼロとなることから、スピンラダーにスピンギャップが存在することを示すことができた。フィッティングパラメータとして得られるスピンギャップは△/k_B=943Kとなり、これは超伝導体となった銅酸化物スピンラダーを1桁近く上回るものである。
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