研究概要 |
・山地河川における土砂などの堆積状況と微地形及び微環境について:定期調査を続けている奈良県吉野川水系の高見川地点において,土砂の堆積状況と微地形・微環境,さらに底生動物の分布様式を調査した.その結果、砂礫堆の移動とサイズの変動に伴い,瀬一淵配置のみならず,水深や流速といった微環境の組成と配置が劇的に変化することが判明した.そのような動的生息場所の変動が生物群集の組成に及ぼす影響については,現在資料を解析中である.また、従来採取された資料を解析した結果,単一流程,単一季節のサンプル・シリーズからベントスとしては約200種の生物種を確認することができた. ・上記の定期調査地点以外に,京都府由良川の中流域と下流域に新たに継続調査地点を設定し,砂礫の堆積状況,河川微環境,生物群集の分布様式についての調査を実施した.ここでは,山地渓流で認められた生息場所以外に,大規模な砂礫堆のフロントに形成される「横断型早瀬」などや,砂礫堆に付随する植物群落の形成する生息場所「ヨシ群落」などが,景観的にも群集組成の面からも区別することができた.「横断型早瀬」には,中・下流性の造網性トビケラ(オオヤマシマトビケラ,エチゴシマトビケラ,コガタシマトビケラなど)が集中的に分布し,ヨシ群落にはこの部分に特徴的なコカゲロウ科の2種やヌマエビ類が,高密度で集中的に分布していた. ・上記の結果より,河川堆積部ととくに砂礫堆は,直接に動的な生息場所を形成するとともに,植物群落の発達に伴った「生物的生息場所」を形成することが明らかになった.今後は,これらの堆積物の動的側面と,生物多様性との因果関係を追及することにより,河川生息場所の動的安定性を明らかにする.
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