本研究の目的は、巻型鏡像異性の進化プロセスに関する帰無仮説を検証するために、巻型が遺伝的に逆旋した場合、巻き方向以外の形態発生は影響されず厳密に鏡像対称の形態が形成されるか否か、及び適応度を決定する生態的形質が同等であるか否かを検定することにある。 巻貝の巻型変異には、左右巻型が多型的に共存する場合と単型的な種に逆旋個体が稀に生じる場合がある。これら多型種群と単型種群では、体型及び交接行動が著しく異なり、鏡像異性の適応的意義を同等に論じることはできない。本研究の特色は、今日まで実験的解析が不可能であった単型種群を対象とし、巻型が遺伝的に分離する系統の左右巻型を比較する点にある。 研究計画の前半にあたる平成8年度には、左右巻型の成長・生存率を比較した。用いた系統、左右巻型のきょうだいの両親、そして左右巻型の3種類の要因について、生存率と成長率の分散分析を行った。その結果、両親が由来する系統およびきょうだいの両親の双方が生存・成長のいずれにも統計的に有意な効果をもたらしていることが判明した。左右巻型の間では、2系統のうち1系統のみで、成長率が左巻より右巻で高いことが明らかとなった。 巻貝の左右巻型は、体内の左右がすべて逆転した鏡像体である。この鏡像体の間で成長率にの差が検出されたのは本研究が初めてである。継続研究における重要な課題は、この左右巻型間の成長率の差が産卵率と相関するものか否かを検定することである。産卵率の測定を実施することにより、左右巻型の生涯適応度の比較が達成されることになる。
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