研究概要 |
植物細胞において,タンパク質の分泌経路は,細胞壁の構成成分の輸送を司ると同時に,小胞輸送による膜の供給と,細胞壁の合成・再構成に関わるさまざまな酵素群の供給など,細胞表層の構築に必須な役割を担っている.したがって,分泌の過程は,細胞骨格系と協同して細胞の極性と伸長方向を決定していくという重要な意義を持つ.その分子機構の解明は,植物における組織形成を理解していく上で不可欠と言えよう.本研究は,これまで動物や微生物にくらべて大きく遅れを取ってきた植物における分泌の研究に,分子遺伝学的アプローチという,酵母で大きな成功を収めてきた方法論を導入し,また同時に生化学的,形態学的にも有用な実験系を確立することを目的とする.研究材料も,培養細胞から固体へと展開し,分泌の意義の理解を,細胞レベルから組織・器官レベルへと発展させていくことを目指す. 本年度は,まず植物の分泌に関わる遺伝子の同定を試み,シロイヌナズナcDNAを酵母で発現できるライブラリーを構築した.さまざまな酵母sec変異を相補するクローンをスクリーニングした結果,sec15-1のts性を抑圧するクローンとして,リングフィンガーモチーフをもつ膜タンパク質をコードする15c-10を単離した.また,Ara4GTPaseを酵母のypt1,ypt3,sec4変異株で発現させると生育が悪くなることを見出し,これを利用してその抑圧遺伝子としてGDP-dissociation inhibitorをコードするAtGDI1を単離した.これは植物の低分子量GTPaseの調節タンパク質としては初めての発見である.優性変異の条件的発現に関しては,すでに得ていたシロイヌナズナおよびタバコのSAR1遺伝子に変異を導入し,これをtetR-応答性プロモーターあるいは糖質コルチコイド応答性プロモーターの下流につないで植物細胞に導入する実験を進めている.
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