平成9年度は、8年度に新たに開発したプラズマ重合急速凍結レプリカ法を用いて生体試料のレプリカを作製し、これを原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。即ち、精製したT4バクテリオファージを雲母の細片と混合し、2枚の銅板にはさんで、シャーベット状液体窒素で急速凍結した。これをレプリカ装置(プラズマナノレプリカ、ウシオ電機)内で-100℃で割断しメタンとエチレンの混合ガスで、プラズマ重合により被膜した。試料をフッ酸で溶解したあと、試料側の面を上にしてグリッドに回収した。このレプリカをAFM(日本電子JSTM-4200)を用いてコンタクトモードで観察した結果、ファージの頭部と尾部を観察することができた。また、頭部の長さは110mで、透過電子顕微鏡で得られた値と一致した。しかし、ファージの形態に変形が認められた。同一のレプリカのTEM観察では、ファージの形態は自然の状態に保たれていたので、この変形はレプリカ作製で生じたものではなく、AFM観察時に生じたものと考えられた。 次に、真菌Cladosporiumの胞子を通常の金属蒸着凍結レプリカ法でレプリカを作製し、AFM(セイコ-電子工業SPI3700/SPA300)で観察した。胞子の全体像は自然の形態を示したが、TEMで観察された10nmの幅の縞模様構造はAFMでは観察できなかった。 以上のことから、プラズマ重合急速凍結レプリカ法は、生体試料の天然の微細形態の保持、レプリカ膜がアモルファスであること、探針の圧力に十分耐える硬さを持つことなどからAFM観察に有用であると考えられる。しかし、さらに分解能の良い像を得るためには、凹凸の激しい生体試料に応用できる工夫など、AFMの装置の改良も必要であろう。
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