シダ類の1種、ミズワラビから10個のMADS遺伝子をクローニングした。これらの遺伝子について、これまで報告されている種子植物MADS遺伝子とともに遺伝子系統樹を構築した結果、2つのグループに分かれることがわかった。種子植物には12個のMADS遺伝子のグループが存在しているが、シダ類であるミズワラビには2つしか存在しないことがわかった。さらに、in situハイブリダイゼーションによる発現様式の解析からシダ類MADS遺伝子は2群とも同様なmRNAの発現様式を示し、栄養器官と生殖器官の両方で発現していることがわかった。これらの器官は、細胞分裂活性が高いことが予想される。シダ類は、胞子を形成する点で、その生殖器官が、種子植物とシダ類の共通祖先であるデボン紀のトリメロフィドン類に似ている。このことから、もし、シダ類と種子植物の共通祖先が生殖器官形成においてミズワラビと同じような遺伝子系を持っていたと仮定すれば、元来植物体全体(栄養、生殖両器官)で細胞分裂制御に関与していた少数のMADS遺伝子が、進化の過程で遺伝子重複により数を増やすことによって、機能分化し、特定の組織で発現するように分化して、その結果として花器官が形成されたのではないかという仮説を提唱することができる。この仮説は、今回調べた以外のミズワラビのMADS遺伝子、および、裸子植物、コケ植物、緑藻類のMADS遺伝子の機能を解析することにより、検証する予定である。
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