本研究での本年度の目的は、粒径のよくそろった球状の誘電体コロイド微粒子であるラテックスの希薄懸濁液で、その電気流体特性に関する基礎的性質を実験的に検証することにある。種々な粒径のラテックスを高純度の水相に分散させ、これに外部から電場を加えて粒子に同じ方向の電気双極子モーメントを誘起させることができる。分極粒子の間の静電的相互作用により、電場と平行な方向の引力的相互作用が働き、多数の粒子が鎖状構造が形成され、さらに複数の鎖状構造の集合した束状構造を作ることが予想された。これを実験的に確認し、その生成過程を詳細に調べることが本年度の中心的な目的とされた。 実験では、直径数μmの単分散ラテックスの希薄懸濁液(約0.1%)を透明な2枚のガラス板の間の約1mmの電極間隙に入れ、これに数10Vの交流電圧を加えながら、粒子の挙動を顕微鏡下で観察するとともにビデオ録画して、その挙動を解析した。この結果、適当な条件(電圧、周波数、温度)のもとで、予想どおり鎖状構造が生成することが確認された。この鎖状構造は、分散した粒子をその両端に吸引しながらその長さを増す。さらに時間が経過すると、鎖間に生じる弱い結合性相互作用によって、複数本の束となり、さらにそれらの束構造が自己組織的に集合して、複雑な3次元的秩序構造を形成する。電場のもとで、この構造は全体として流動し、きわめてダイナミックな状態をもたらす。ラテックス粒子系でのこのような電気流体の特性は、電圧、周波数、温度、水中イオン濃度などに依存することが、実験的に明らかにされた。次年度では、この特徴的な挙動を理論的に解析するとともに粘性などの流体特性の測定を予定している。
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