THz領域に振動準位をもつ新非線形物質側鎖の選択的解離を行うにあたって、我々はモード同期チタンサファイアレーザー共振器内にTHz発生用半導体デバイスとして可飽和ブラツグ反射鏡を用いた高出力THz電磁波光源の研究開発を行った。 可飽和ブラッグ反射鏡は単一量子井戸を内部に含む半導体により構成された誘電体多層膜からなる。誘電体多層膜コーティングは光学的に高反射率特性を示し、単一量子井戸は入射光パルスによりTHz電磁波発生に必要な非線形分極を生じさせる。そして、可飽和ブラッグ反射鏡をモード同期レーザー共振器内に設置したとき、共振器内の高いレーザー光強度により、高出力のTHz電磁波が発生される。 本研究で用いたモード同期チタンサファイアレーザーは、180fsパルスが波長768nmで得られ、またこの時、共振器内に配置した可飽和ブラッグ反射鏡への照射強度はレンズ等による集光を行わず8.3MW/cm^2以上得られた。そして、可飽和ブラッグ反射鏡の表面から表れるTHz電磁波は液体ヘリウム温度に冷却されたlnSbボロメータへ伝達され測定される。スペクトルは偏光マイケルソン干渉計からのフーリエ変換より得られる。 本研究の結果、周波数0.66THzにスペクトルのピークがある、平均出力2〜3nWのTHz電磁波の発生に成功した。 本研究において、我々は超短パルスレーザー共振器内に可飽和ブラッグ反射鏡を用いた極めてシンプルに光学的デザインされたTHz電磁波発生の手法を提案し実現した。本研究で用いた可飽和ブラッグ反射鏡は、安価で小型化が容易な半導体ミラーであり、このような工学的実現容易なシステムはモード同期固体レーザーに幅広く応用されると考えられる。さらなる、共振器の光学配置の最適化により、本システムの新非線形物質強励起選択的解離実験への応用も実現されるであろう。
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