研究概要 |
真空,あるいは絶縁体(液体,あるいは気体)で満たされた極間隙中を,多数の帯電粒子が電気泳動によって陽極と陰極との間を高速に往復運動し,陽極と陰極の一方,あるいは両方に配置された工作物表面を除去する新しい加工法を開発した. 1.機械的加工作用の確認 筆者の過去の研究では,除去作用としては熱的加工のみが確認されていた.すなわち,帯電粒子が極間を架橋し,連なった粒子の先端と工作物との間で放電が生じることによる加工作用である.そこで,本年度は新たに極間隙を0.8mm程度に大きくし,印加電圧を1kV以上に増加させた.また,液体中では粘性の影響で粒子の速度が遅いので,空気中での加工を試みた.その結果,鋼の30μm直径の粒子を用いてアルミや銅の表面に機械的衝突による圧痕の形成が初めて確認できた.しかし,ブロックゲージやシリコンウェハなどの高硬度材料への加工は困難であることが分かった. 2.ダイヤモンド砥粒の混入による高硬度材料の除去加工の確認 そこで,高硬度材料に対しても加工が行なえるように,ダイヤモンド砥粒を混入した.ダイヤモンド砥粒は絶縁体なので泳動現象は生じないが,混在する鋼の粒子が泳動するので,鋼の粒子の運動エネルギーが工作物表面上のダイヤモンド粒子に伝達され,高硬度材の表面に加工痕が生じることが明かとなった.また,シリコンウェハの除去加工を試み,工作物上に堆積する加工屑や鋼の粒子の研磨粉を周期的に洗浄しながら加工を行なうと,1時間当たり30nmの除去深さの進展が見られた. 今後は加工変質層の少ない加工を行なうために,3番目の加工作用である化学的加工作用の存在の可能性を探る.つまり,機械的な衝突や放電の熱的作用により粒子と工作物との接触部を活性化し,これによって粒子と工作物,あるいは極間の流体と工作物との間の化学反応を促進させて加工を行なう方法である.
|