マイクロマシンは今世紀最後の工学革命と言われているが、その動作特性を確実化する上でマイクロトライボロジーが果たす役割は極めて大きい。特にマイクロマシン上に吸着する水分子が微小なメニスカスを形成し、スティクションと言われる相対運動に対する高抵抗を生じさせることは解決しなければならない最大の問題の1つである。本研究では表面近傍に存在する吸着水の構造とその物理・化学的特性を明らかにしてマイクロマシンのマイクロトライボロジーに新知見を与えようとするものである。水分子吸着挙動は水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を用いてナノグラム感度で検出し、吸着等温線および吸着熱曲線を算出して考察を加えた。また、ケルビン式を用いてLIGAプロセスによって作製したNiおよびCu表面に存在するマイクロポア(極微小細孔)の分布を求めた。固体表面から3〜4分子層の水は特異な構造を示し、疑似固体ととも考えられる遠距離秩序を保つことが示された。表面に存在するマイクロポアに凝集する水分子のサイズ、LIGAプロセスの際に導入された表面官能基の影響がこのような疑似固体構造と極めて密接な関係にあることが明らかとなった。また、この特異な表面近傍水の存在は各被覆率における接触電気抵抗測定からも確証を得た。さらに、電界イオン顕微鏡(FIM)を併用することにより、Wチップに吸着する水分子を直接イメージし、その吸着サイトや電界下における移動を観察した。水分子吸着は{211}晶帯の大きなテラスから開始し、中央の{011}面へと拡散することが判った。レッジやキンクが優先的な吸着サイトとなり得ること、また、極めて急激な表面拡散を行うことが明らかとなり、現在は水分子の分極と表面近傍水の構造について表面電位の検出も並行して解析をおこなっている。
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