研究概要 |
流体潤滑理論によれば,形成油膜は潤滑油の粘度が高いほど,平均速度が大きいほど厚くなる.理論においては粘度・速度がいくら大きくなっても潤滑油は理論通りの量が接触域に導入されることが前提条件となっている.しかし,実際には潤滑油は摩擦面の運動に伴い接触域に導入されるわけであるから,その導入力には潤滑油粘度,速度,荷重等で規定される作動条件に応じた限界値が存在し,限りなく油膜が形成されるわけではない.滑り速度を上昇させ限界値Ψcr(限界軸受け定数)になると,摩擦力は低下する傾向が認められた.まず著者は摩擦部の出口付近の潤滑油の性状,つまり屈折率を測定することにより,潤滑油が高速滑り条件になるとそれを構成する低分子量のものが入っていることを明らかにした.しかしその限界条件は何により決定されるかはいまだに不明であり,限界条件がいつ始まるのか,あるいは摩擦係数と実際の粘度がどのあたりまで対応しているかを調べる必要性がある.そこで初年度は油膜厚さを測定する測定系をつくることを目的とした. 以下にその結果を要約する 1)油膜測定の妥当性を調べるために,理論油膜厚さの数値計算を行い実測値と比較した. 油膜厚さは潤滑油の入り口条件で決定されるので我々の実験条件がどの位置にあるかを推定しなければならない.そこで摩擦係数から入り口条件を推定し,理論油膜厚さと比較したところ,摩擦係数が安定,つまり定常状態のときは理論とよく一致した.しかし,潤滑油を給油した直後の油膜 厚さは理論値とかけ離れていた.その原因は理論計算が2次元やっていることと,油膜が厚くなると圧力の漏れ(サイドリーク)により,理論とは離れていくと考えられる.今後理論の適用範囲も考えなければならない. 2)接触部の出口付近の潤滑油を採取し,屈折率を測定することによって,接触域に導入される潤滑油は必ずしも給油成分と同一ではなく,軸受定数Ψが限界値Ψcr以上になると,高粘度成分は接触域に導入されず低粘度成分が主として導入されることがわかった.その結果,摩擦係数がΨcr以上で理論値よりさらに低くなる. 3)摩擦特性の低下は構成成分の分離がもたらしていたが,今回Ψcr以上で油膜厚さが減少していることが明らかになった. 4)昨年度までは実験途中に給油を行っても摩擦係数の変化は見られなかった.それは上部試験片の傾きが厳密には水平でなく摩擦力の感度があまりよくなかった.しかしレーザー変位計により水平度を測定できるようになったのでかなりの感度が測定できるようになった. 5)上記の理由により潤滑油の油量により入り口部の境界条件が変わる.つまり摩擦係数が変化するので,今後給油方法,入り口部の境界条件をも含めた潤滑油の導入特性を調べていく必要がある.
|