研究概要 |
高分子溶液・融液はニュートン流体には見られない特異な流れ挙動を示すことが多い.これまで,このような粘弾性流体特有の流れは,非ニュートン粘性,第1,第2法線応用差,伸長流動特性および動的特性により説明されてきたが,これらの特性が互いに影響しあうため明確でない場合が多い.このような巨視的な流動特性は,分子鎖の形態,配列,分布の複雑な変化,ならびに分子の相互干渉といった微視的な現象によるものと考えられる.従って,連続体の挙動として観察される巨視的現象と微視的スケールの分子の運動を結び付けて考えることが不可欠であり,分子運動学はレオロジー特性や特異な流動挙動などを十分に理解するために必要である. 本研究の目的は,粘弾性流体特有の流れを連続体力学の立場から解析する代わりに,分子運動学を基礎として分子鎖の運動から解析することである.そこで,本研究では,側鎖を持たない分子の希薄溶液を対象とし,それをFENE(finitely extensible nonlinear elastic)ダンベルの希薄分散系(溶媒はニュートン流体)でモデル化し,ブラウン運動学シミュレーションによりビーズの働きを計算しダンベルの形態の変化を求める.ダンベルの形態がわかると溶液内の応力状態が計算できる.本年度の研究成果は以下の通りである. (1)単純せん断流れ・単純伸長流れにおいて,FENEダンベルの形態の変化を数値解析し,定常なせん断・伸長流動特性を求めた.(2)スタートアップ流動特性ならびにせん断流れ停止後の応力緩和特性を計算し,高分子溶液の実験結果と比較した.(3)平行平板流路内の流れを数値解析し,巨視的な流速分布と比較した. 以上より,FENEダンベルモデルを用いて希薄高分子溶液の単純な流動を定性的に表すことができることが明らかになった.
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