本研究の最終的な目的は、アトリウム内の複雑な昼光環境の動態を把握し、快適なアトリウムの光環境を構築するための適切な設計指針を提示することである。一般に、光環境は物理的側面と人間の心理的側面の両面から総合的に考慮されるべきである。当該研究期間における目標は、光環境の物理的側面から、アトリウムにおける昼光照明の設計指針を検討することであった。 アトリウム内の昼光率の分布を予測するため、平成9年度には簡易な方法を作成した。これは、アトリウムの空間形状を設定したときに、内部仕上げ面の反射率の構成によって昼光率分布が求められるものであり、例えば建築の基本設計の際、およその昼光率分布を知る上で有用と考える。平成10年度には、モンテカルロ法を応用し、開口部分の材料の透過特性や内部仕上げ面の反射特性、昼光光源である天空輝度分布を計算条件に組み入れて昼光率分布を予測する方法を作成した。モンテカルロ法は、人工照明については既に一般的な計算手法の一つであるが、昼光照明の計算に応用された例はない。本研究では、天空輝度分布モデルとして平均天空を用い、側壁面に開口を有するアトリウムについて、開口が面する方位による昼光率分布の変化を確認した。 なお、アトリウム内の空間は、単なる通路としての歩行空間、ラウンジ、イベントの開催場所、展示空間など、種々の使用形態を有する。快適な光環境のためには、アトリウム空間の機能に対応して、光の量すなわち明るさの他に、光の質に関して注意を要する事項がある。上記のモンテカルロ法による昼光照明計算を利用すれば、光の質を表す輝度分布や光の流れ方なども予測できる。しかし、これらの指標と光環境の快適性に関しては今後の検討課題である。
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