研究概要 |
本研究は、原子間力顕微鏡を用いた原子スケールの観察から、水溶液環境下での銅の腐食機構と腐食防止剤であるベンゾロリアゾール(BTA)の役割を明らかにしたものである。 過塩素酸水溶液(PH=1)中に置かれた単結晶銅のサイクリックボルタノグラム(CV)はその結晶面(100),(111),(110)でいくぶん異なるが、-1.050v(以下水銀/硫酸水銀参照極に対する電位)で水素の発生によるカソード電流が、また-0.6Vにおいては銅の溶解のアノード電流が観察される。この酸水溶液に1mMのBTAを加えると、BTAは同じ電位におけるカソード反応およびアノード溶解反応を抑制することが分かった。これは溶液中に加えられたBTAが銅の表面に吸着し反応を抑制するためである。そこで、再構成されていないCu(100),(111),(110)表面を酸溶液中で観察した後、BTAを加えたときの表面構造の変化を追跡した。いま、Cu(100)面を例とすると、水素発生電位よりカ-ソード側では、単結晶表面特有の単原子ステップとテラスよりなる構造が観察され、そのテラス上ではCu(100)-(1×1)構造を示す原子レベルの凹凸像が得られた。水素発生電位よりアノード側に電位を移動すると次第にステップ-テラス構造は不明瞭となり、凹凸のある表面構造へと変化する。また、原子レベルの観察によれば、BTAを含む溶液では、このCu(100)-(1×1)構造はca.-0.85vで新たな周期構造へと変化する。その構造は、周期はca.0.56nmとca.0.47nmを示し、2回対称性を有している。すなわち、基板の銅原子に対し、(√5×√13)構造を示すことが明らかとなった。同様な現象は、Cu(110)面においても起こり、BTAはc(2×3)またはc(2×4)吸着構造を示す。さらに電位をアノード側に移動させると、これら周期構造は不明確になり、遂にはBTA吸着膜は破壊され、腐食が開始されることが明らかになった。
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