イオン注入法は、現在、半導体の不純物ド-ピング法で不可欠な地位を占めているが、新物質、あるいは、新デバイスの作製法としても利用できる。本研究では、電子デバイスへの応用をめざして、化合物半導体にイオン注入した時にできる格子欠陥の形成・回復の機構を調べた。 InP、InSb、GaSbウエファーを低温に保持し、これにSnイオンを注入し、その表面層の構造変化を断面および平面TEMによって調べた。注入時の基板温度は-90℃-130℃、Snイオン注入量は4_X10^<14>-1.5_X10^<15>ions/cm^2であった。 室温のイオン注入では、通常、損傷エネルギーが、1-2dpa以上蓄積されるとその領域は非晶質化される。このとき、基板温度をあげると、非晶質化しにくくなり、基板温度を下げると非晶質化は促進されると、信じられている。温度をあげた場合非晶質化が抑えられることは、実際に確かめられている。しかし、われわれの低温イオン注入実験の結果は、非晶質化が抑制され、表面層に双晶・多結晶が観察された。InP、InSbの場合には、rock-saltへの相変態が確認された。表面の強く乱された領域の厚さは、InPが50nm、InSbが20nm、GaSbは300nmと大きく違った。これらの値は注入イオンの飛程より大きかった。さらに、いずれの試料の場合も、下地と表面の乱された領域の間には強い歪みが観察された。それゆえ、双晶、相変態をはじめとする欠陥構造の形成には、表面層に蓄積されるstressが重要な役割をはたしているものと考えられる。
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