低温でSnイオン注入したInPの表面層を断面TEMで調べ、多結晶リングを観察した。一連の強いリングはInPの高圧相であるrock-salt型データと良く対応することから、注入によって蓄積された応力によって、表面層がzinc-b1end型からrock-sa1t型に相変態したものと考えた。この現象の探索と、注入・アニールによって電気的性質の変化を調べた。 InP、InSbではrock-sa1t型のリングが観察されたが、Ga系ではみとめられなかった。特にGaSbには、非晶質をあらわすハロ-がわずかに認められるのみであった。再同定の結果、InPおよびInSbのすべてのリングは、In_2O_3のX-rayデータとよく符号した。酸化物In_2O_3は、SEM観察結果から、試料を薄膜化するさいに飛散したInが酸素と結合し、In_2O_3となって、TEM試料上に残ってしまったものと考えられる。注入InPをあらためて観察したところ、注入層の支配的な構造は非晶質であった。しかし、rock-salt type構造とみられるextra spotも観察されている。試料のSAEDには、母相の格子定数の縮小が見られ、zinc-blend typeからrock-salt typeへの相変態は有り得る。 InPの電気抵抗はイオン注入によってさほど変わらない(2.5Ω)。しかしアニールによって大きく変化する。50°Cのアニールで抵抗は10倍になり、l00°Cでもとにもどる。150°Cのアニールの後ではふたたび増加するが、200-250°Cでは2.5Ωにもどる。50°Cおよび150°Cアニールの後の、注入層の比抵抗を見積もってみると、240-280Ω・mになり、Virginの30000倍の値になる。ドープされた半導体の場合、高抵抗になるのは非晶質になったときと多結晶になったときである。電気抵抗の変化は、これら、構造の変化に対応しているものと考えられる。
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