超伝導線材は、作製・使用中に機械的・電磁気学的応力場に置かれ、その結果、臨界温度・電流・磁場などの超伝導特性は劣化する。今後さらに厳しくなる力学的環境に対応できるよう、力学的見地からの高超伝導特性確保要件を把握することが必要である。本研究では、力学的見地からの高超伝導特性評価とその改善に関する基礎的研究を行った。主な結果は以下のように要約される。 塑性変形能を持つ延性的なNb-Tiフィラメントが安定化銅に埋め込まれた複合超伝導線材では、静的引張応力下で線材単独ならネッキングして破断する歪を越えてもなお変形が続けられる。これは最初生じたネッキングの進行が抑制され、他の箇所でネッキングが生じ、それもまた抑制されるといったフィラメントと銅の力学的相互作用の結果である。その結果、脆いA15型化合物や酸化物超伝導線材では実現できない力学的安全性が確保される。ただし、電流値はフィラメントが均一変形する場合に比して20%程度低下する。 一方、繰り返し応力下では、負荷応力レベルが高い場合は、フィラメントのネッキングは、静的応力下に比して、より進行し、マルチプルネッキング現象が生じる。その結果、超伝導電流を輸送するフィラメントの有効断面積が減少し、臨界電流は低下する。また、負荷応力レベルが低い場合は、銅に疲労クラックが形成され、このクラックが進展して臨界電流を低下させる。 以上の結果および平行して行った応力計算から、安定化銅を熱伝導率をできるだけ低下させない分散強化がさらなるネッキング抑制に効果的であると提案される。
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