1.膜透過に対する磁場の影響 分画分子量5000のセルロース膜による膜透過セルと電解質(KCl)水溶液に磁場を照射し、イオンの膜透過に対する磁場効果を電導度変化により測定した。その結果、磁場照射によりイオンの物質移動係数が増加した。また、アルコール濃度の増加、温度の上昇により磁場効果の割合が減少し、また磁場照射後5日間はその効果が持続した。これらは、研究代表者がこれまでに行ってきた磁場効果に関する実験結果との整合性があった。電解質の陽イオンを変化させたところ、膜細孔壁との相互作用力の小さいと思われる水和ギブスエケルギーの大きなイオンを用いたときには磁場効果が現れなかった。また、pHを変化させたところ膜素材が電気的中性に近づくにつれ磁場効果の割合は減少した。これらから、磁場照射により膜と電解質との静電気的相互作用が変化したものと考えられる。 2.原子間力顕微鏡(AFM)による付着力測定と吸着層力学構造変化の検討 AFMによるシリカ粒子-雲母平板間の付着力測定を行い、磁場照射により電解質の界面への吸着力の低下が示唆される結果が得られた。また、イオンの膜透過をコントロールする重要な要因である膜電位に対する磁場の影響を測定した結果、膜電位が減少することが明らかになった。 3.評価 以上の結果より、磁場照射により膜細孔壁の吸着水、電解質の水和水の構造化が起こり、その結果、水を介した電解質と膜との静電気的相互作用が弱まり、イオンの膜透過における膜-溶液界面での障壁となる膜電位が減少し、また、膜細孔内でイオンが細孔壁へ固定されにくくなることによってイオンの透過速度が増加するものと考えられる。また、以上の結果は、生体に対する磁場効果の要因の一つであると考えられる。
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