大気・海洋間での炭酸ガスの移動速度を正確に評価することが大気・海洋間での炭素収支を正確に見積もるうえで極めて重要である。しかし、現実の大気・海洋間での炭酸ガスの移動速度の評価に真水を用いた風波水槽実験から得られた炭酸ガスの液側物質移動係数に関する知見が使用されており、その信頼性が疑問視されている。つまり、風波水槽実験では真水が使用されているにも関わらず物質移動係数は海水の場合もほとんど変化ないとして風波水槽実験で得られた関係がそのまま海水つまり海洋に適用され大気・海洋間での炭酸ガスの移動速度が評価されている。しかし、海洋のように乱流状態で流れる液側への炭酸ガスの吸収あるいは放散を考える場合、物質移動係数はほんとうに真水の場合と海水の場合とで変わりがないのだろうか? 本研究の目的はこの疑問に答えることであり、風波水槽および振動格子乱流水槽を用いた炭酸ガスの乱流状態にある海水、食塩水および真水への吸収実験を行うことにより移動速度を評価した。その結果、海水、食塩水の場合の移動速度は本研究者らのこれまでの結果と同様に半減するが、その原因は気液界面に存在する極微量の表面活性物質の存在と電解質(塩化ナトリウム)による分子拡散の変化による複合的効果にあると推定するに至った。また、一般的な自然海水の汚れが移動速度に大きく影響するとする従来の通説を完全に覆す結果を得た。しかし、気液界面に存在する活性物質の成分が何であるのかの解明とその存在の実験的実証を行うまでには至らず、実験的な分析手法の開発をも含めたこの活性物質の解明と実証がむしろ本萌芽的研究から発展させるべき極めて興味深い将来の研究課題として提案されるに至った。
|