酵素は生体が作り出す高度に機能化されたタンパク質の一種であり、生体内で特定の反応を、非常に高い選択性で触媒する。酵素が本来有しているこの厳密な気質特異性を、人為的に変える手段と成り得るのがImprint法である。本法の原理は、基質アナローグを鋳型分子として、酵素の活性部位にその型を記憶させてしまおうという、シンプルな発想に基づいている。本研究では、界面活性剤被覆リパーゼによる2-オクタノールの光学分割をモデル系として、Imprint法による本酵素材料のエナンチオ選択性の向上を試みた。 本研究ではアルコール基質が基質阻害を起こすことに着目し、2-オクタノール自身を鋳型分子として検討を行った。2-オクタノールと界面活性剤をアセトンに溶解した後、酵素水溶液に混合するという新しい手法により、Imprint被覆酵素の調製を行った。その結果、アセトン/緩衝液の混合比が1/9(v/v)で、リパーゼに対する鋳型基質のモル比が200倍以上になると鋳型効果が発現した。さらに、鋳型基質とリパーゼの接触の度合いが高いと鋳型効果が発現しやすくなることが明らかとなった。反応溶媒であるイソオクタンには、2-オクタノールは均一に溶解する。そこで、2-オクタノールを過剰に含むイソオクタン中にリパーゼを分散し温置することで、一旦、鋳型基質とリパーゼの複合体を形成させ、これを回収して被覆リパーゼを調製することを試みた。その結果、回収後の粉末リパーゼは、天然リパーゼとほぼ等しい選択性しか示さないにもかかわらず、その被覆リパーゼには大きな鋳型効果が発現した。この結果は、リパーゼの鋳型効果の発現には、界面活性剤による被覆が効いていることを示唆している。
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