レプテーション概念とチューブモデルにより高分子濃厚系の非線形粘弾性に関する理解は非常に深まった。しかし、これらの考え方を用いても理解できない現象が多々あり、高分子ダイナミクスを理解する上でのブレークスルーとなる新しい考え方が再び求められている。この新たな混乱は大きな刺激による内部構造変化を無視していることに由来すると考えられる。高分子濃厚系の粘弾性は線形のみならず非線形域においてもゴム域の高さと最長緩和時間で特徴づけられるが、大変形応力緩和実験より後者は非線形域においても歪に依存しないことが知られている。したがって高分子濃厚系の非線形粘弾性を理解する上で重要なのは、大きな刺激によるゴム域の高さの変化である。このゴム域の高さの変化はゴム域に対応する周波数の微小振動を大変形に重ね、このときの振動応力応答より得られる微分動的弾性率(DDM)により観測できる。このような考え方にしたがい、ずり応力緩和にともなうDDMの変化を観測したところ、微小変形下では平衡状態における値から変化しないが、大変形下では平衡値から低下し、その回復速度はきわめて遅く、最長緩和時間程度経過しても平衡値には戻らないことが明らかになった。高分子濃厚系の非線形粘弾性の本質は大変形下における絡み合い構造変化ならびにその不可逆性にあると考えられる。
|