「刺激を与えた後、最長緩和時間程度経過すれば系は平衡状態に戻る」というのが高分子ダイナミクスの定説となっている。最長緩和時間は応力緩和より求められる。応力っ緩和は刺激により生じた異方性分子鎖配置が等方的配置に回復する過程に対応する。したがって、最長緩和時間は分子異方性緩和の尺度を与えるものであって、系の内部構造緩和の尺度をも与えるものではない。高分子希薄系や高分子濃厚系でも微小変形下では非平衡状態は分子鎖配置異方性のみで記述できるので、最長緩和時間が平衡状態への回復の目安を与えるとする見方は正しい。しかし、高分子絡み合い系のように非線形条件下で内部構造変化をともなう系では、内部構造変化ならびにその回復をも考慮しなければならない。問題は分子異方性緩和速度と内部構造緩和速度の比である。もし、前者が後者に比べ格段に遅いならば最長緩和時間が平衡状態への回復に対応するという従来の定説はくつがえる。この考え方の妥当性を検討するために、ずり緩和弾性率をプローブとする分子異方性緩和観測と、直交微分動的弾性率をプローブとする絡み合い構造緩和観測を独立かつ同時に行い、大変形下では絡み合い構造が変化すること、ならびにその回復がきわめて遅く、最長緩和時間の3倍程度の時間が経過しても平衡値には戻らないことを実験的に確認した。本実験結果は、最長緩和時間に関する従来の定説が必ずしも正しくないことを実証するとともに、高分子濃厚系の非線形粘弾性の本質は大変形下における絡み合い構造変化ならびにその不可逆性にあることを明確に示す。
|