ナノメートルオーダーのマニピュレーションとピコニュートンオーダーの力の測定が可能な原子間力顕微鏡を利用して、高分子希薄溶液中の高分子鎖の引張り特性の測定を検討した。両末端にカルボキシル基を導入した単分散ポリスチレン(PS)をリビング重合により調製し、そのトルエン溶液を測定に用いた。また、プローブ探針とシリコンウェハ-基板の表面を水酸化処理した。カルボキシル基は水酸基と反応して共有結合を形成することができる。PSトルエン溶液中で探針と基板表面の間の距離を0〜100nm程度のに渡り繰り返し往復運動させ、探針の変位を検出した。その結果、1〜3%程度の確率で逆ランジュバン関数に類似したフォースカーブと10〜20ピコニュートンの最大引張り力が観測された。これは高分子鎖の一部が探針と基板表面に物理吸着し、引っ張られたものと考えられる。また、0.1%以下の確率で200〜250ピコニュートンの最大引張り力が観測された。これは、PS末端の塩素基が水酸基に変化し、探針と基板に水素結合により架橋され引っ張られたものと考えられる。最大延伸距離は、用いたPSの分子量に比例して増大した。力一距離カーブは、高分子鎖を構成するセグメントが弾性変形すると仮定する拡張されたランジュバン関数によく一致した。モデル計算との比較から、セグメントの長さはC-C結合の2〜4倍程度と評価され、セグメントの弾性率はC-C-Cの共有結合の変角の理論弾性率120N・m^<-1>よりも著しく小さくなった。以上の結果から、高分子鎖一本の延伸過程では、複数個のC-C結合の連結鎖から成るセグメントの配列が初期のランダム状態から一直線状に変化すると同時に、そのセグメント自身が弾性伸長していると考えられる。本研究では、孤立高分子鎖一本の性質を実験的に検証する新規測定技術を開発し、高分子鎖の分子レベルでの特性を初めて直接評価した。
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