ナスの不定胚誘導条件下で特異的に発現する遺伝子の一つとして、ディファレンシャル・ディスプレイ法により、ウイルムス腫瘍抑制遺伝子ホモログ(QM)を同定してきた。本年度は、その全一次構造を決定し、さらにナスのQM遺伝子発現が培地のオーキシン濃度に依存して調節されていることを明らかにした。すなわち、オーキシン濃度が50マイクロモルまでは、QMの遺伝子発現は濃度に比例して促進されるが、それ以上になると逆に抑制されていた(Momiyama et al.論文投稿中)。 また、QMの動物細胞における発現の試みとして、本年度はバキュロウイルスを用いた実験系の確立を行った。バキュロウイルスの発現系の特長として、外来遺伝子由来の蛋白質を高い収率で発現させることが挙げられる。また、大腸菌などの原核細胞における発現系と異なり、糖などの真核細胞特有の翻訳後の修飾を行うことが可能である。 本年度前半までに単離したナスのQMの全長cDNAを、バキュロウイルス発現ベクターへサブクローニングした。このプラスミドベクターを用いてバキュロウイルスにより昆虫の培養細胞へ感染させた。培養細胞よりタンパクを抽出し、SDSポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行った。その結果、対照の細胞と比較して、QMの遺伝子を導入した細胞において、QMの一次構造から予想される約2万4千ダルトンの顕著なバンドを確認した。今後はさらにタンパクの精製を進める予定である。また、動物のQMはリン酸化されることによってその機能が制御されていることが最近、学会において報告された。植物におけるQMの機能をリン酸化の観点から解析するためにも、本研究で精製したタンパク質を用いて来年度の研究を進めていく。
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