現在遺伝子組換えを含むgenetic manipulationが行える生物のうちで最も高温で生育できるThermus thermophilusの宿主・ベクター系には、選択マーカーとして使用できる唯一の抗生物質耐性遺伝子であるカナマイシン耐性遺伝子の発現上限温度が、宿主の至適生育温度より10℃も低い60℃であるという問題点があった。このカナマイシン耐性遺伝子をレポーターとして70℃でもカナマイシン耐性を発現できるクローンを選択したところ、カナマイシン耐性遺伝子の上流に、未知のopen reading frame (ORF)が融合した形のクローンが得られていた。つまり、カナマイシン耐性遺伝子産物(カナマイシン不活化(修飾)酵素)のN-末に61個のペプチドが融合したために、カナマイシン修飾酵素の発現上限温度が上昇したと考えられていた。 上記の仮説を証明するために、融合型カナマイシン修飾酵素のT.thermophilusからの精製を試みたが、発現量が少ないために成功しなかった。そこで、大腸菌で融合型酵素の大量発現を図ったが、融合型遺伝子は大腸菌発現ベクター中にクローンすることさえ不可能であった。そこで、融合遺伝子にフレームシフト変異を人為的に導入し、T.thermophilus内での発現上限温度を検討したところ、非融合型と同じ60℃にまで低下していた。また、融合していたORFの全長を改めてT.thermophilusゲノムからクローニングしたところ、当該ORFはT.thermophilusのリボゾーム蛋白L32をコードするものであることが明らかとなった。 以上の結果から、リボゾーム蛋白L32のN-末領域がカナマイシン修飾酵素のN-末に融合した結果、融合型カナマイシン修飾酵素の生体内での熱安定性が上昇したことが確認された。
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