研究概要 |
本研究でいう細胞質遺伝子工学とは、真核細胞において、対象とする遺伝子を核に移行させず細胞質中に保持して大腸菌制御系等を基に発現制御させる技術のことである。本研究では酵母Saccharomyces cerevisiaeをモデル真核生物として、その細胞質で複製可能なKluyveromyces lactisの線状DNAキラー・プラスミドpGKL1(8,874bp)を発現ベクターとして改良することを目的とした。熊本工業大学の群家徳郎教授らにより、細胞質にあるpGKL1 DNAについても核内と同様に相同的組換えが起こること、またキラー毒素蛋白質のαβサブユニットをコードするORF2の大部分をLEU2遺伝子と置換えたpJKL1を作ることによってleu2-3,2-112変異を相補できるいことが、1991年に示されている。pGKL1には、あと3つのopen reading frameがあり、ORF1はDNAポリメラーゼをコードしているため必須で手を加えることができないが、耐性に関わるORF3とキラー毒素蛋白質のγサブユニットをコードするORF4は転写・翻訳開始配列として加工可能と考えられる。本年度は、pJKL1 DNAを鋳型としたpolymerase chain reaction(PCR)により、ORF3を挟む両側のDNA断片を調製し、大腸菌ベクターpUC19上にクローン化してpYK472を作製した。両断片の間には制限酵素SallとBamHIの切断配列を設け、ORF3の転写・翻訳開始のためのDNA配列がBamHI側に存在するようにした。即ち、ここに挿入した遺伝子はBamHI側から転写・翻訳されて発現すると期待される構造である。酵素URA3遺伝子のORF部分のみをPCRで調製し、pYK472に挿入して形質転換・相同組換えにより導入したところ、期待通りura3変異を相補する組換え体が高頻度に得られた。但し、LEU2と同様にURA3の相補も、組換え体の生育は野生型酵母に比べて著しく遅く、転写・翻訳効率が低いことを示唆している。現在、T7ファージRNAポリメラーゼ遺伝子をpYK472に導入し、転写をこの支配下におくベクターの構築が進行中で、これによる転写の効率化が期待される。
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