本年度は我々が発見したビシナルアジドトシレートとアデニンとの反応によるアジリジノアデニンヌクレオシド生成反応のスコープとリミテーションの研究、及び本反応を用いた天然ヌクレオシドにより構造式が類似しており生物活性が期待できるアジリジノアデノシン誘導体の合成研究を目的とした。D-グルコフラノースの5位、6位を使って、アジド基が1級(6位)トシルオキシ基が2級(5位)のビシナルアジドトシレート(I)とアジド基が2級(5位)トシルオキシ基が1級(6位)のビシナルアジドトシレート(II)を調製し、それぞれのアデニンとの反応を研究した。その結果、1級トシルオキシ基を持つIIはトシルオキシ基のアデニンによる直接置換のみが起こり、アジリジン環の形成は全くみられなかった。一方、立対障害によりトシルオキシ基のアデニンによる直接置換が困難と思われるIはアデニンとの反応により3つの生成物を与えた。これらは全てIRにおいてアジド基の吸収(2100cm^<-1>)を示さないことからトシルオキシ基がアデニンで直接置換されたものではないことが分かった。そのち1つはカラムクロマトグラフィーで単離精製でき、結晶として得られた(他の2つは分離不可能であった)ので、X-線結晶解析により構造式をアジリジン環上糖とトランスにアデニンが9位で置換したものと決定した。この結果、トシルオキシ基が立体障害でアデニンによる直接置換が難しい時、本新反応が起こることを明らかにした。アジド基のイミンへの分解は光化学によって低温で行うことができ、アデニンによるトシオキシ基の置換は加熱を必要とするので、低温-光化学反応でアジリジノアデニン合成の可能性があり、新しい研究課題が生じた。生理活性が期待できる誘導体の合成のためにD-マンノースから反応基質である1.4-アンヒドロ-2-アジド-2-デオキシ-3-O-トシル-5-O-ベンゾイル-D-キシルトールを合成した。
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